増大する非「正規」労働者の

待遇改善のために

2003年8月 『労働運動』8月号論文


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一、激増する非「正規」雇用と待遇破壊

 総務省の「労働力調査」によれば、二〇〇三年一〜三月期の完全失業者は三六三万人。三六〇万人を超えた前年同期の記録を三万人(〇・八%)も超えて雇用・失業情勢は最悪の事態を迎えています(表1)。ところがどうしたことでしょう? 完全失業者が増え続けている同じ時期に、雇用者数も二〇万人(〇・三%)増えて五三一七万人になっているではありませんか。

 実は、雇用者数の増加は、完全失業者と背中合わせに増加してきた不安定雇用・非「正規」労働者が、同じ時期に九〇万人(六・四%)も増加したためなのです。役員層は三〇万人(七・四%)も減り、「長時間・過密労働」「単身赴任」「過労死」にさらされてきた「正規」労働者は四二万人(一・二%)も減りました。ここには容赦なき肩たたき・首切り・リストラ、労働強化・「合理化」などの無残な地獄絵が浮き彫りになっています。

1、「失業者」と背中あわせの非「正規」労働者

 では、九〇万人も増えた非「正規」労働者の場合は少しはましだったのでしょうか? 増加の中心は五一万人=七・三%も増えた短時間労働者、すなわちパート労働者ですが、同時にアルバイトが一八万人=五・六%増、派遣・契約・嘱託労働者が一五万人=五・八%増、その他の労働者が六万人=四・八%増と、それぞれに高い伸び率を見せています。ここにも、失業の増大を追い風にして、法律の網の目をかいくぐり、次からつぎに新しい無法地帯を生む「雇用の多様化」が、非「正規」労働者を、これまでにも増してすさまじい不安定と無権利の地獄に追い込んでいるさまが現われています。

 今年は「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート法)」の制定・施行から一〇年目にあたりますが、この法律は、日経連(現在の日本経団連)が翌九四年と九五年に連続して出した「今後の雇用システムの方向」、「新時代の『日本的経営』」(いわゆる「財界の二一世紀戦略」)と呼応し、「正規」労働者をリストラして非「正規」労働者に切り替える流れを促進してきました。「労働力調査」で一〇年間の推移を見ると、労働力人口、就業者数、雇用者数は、九七年をピークに減少に転じる一方で、抜群の増加を重ねてきた完全失業者と非「正規」労働者は九七年以降も増加を続け、それぞれに二・五三倍、一・四一倍になっています(表2)

 この流れのなかで、非「正規」労働者、とりわけ短時間就業者を「失業者」と区別するのは非常にむずかしくなっています。〇二年の「労働力調査」では、労働時間が週三五時間未満の「就業者」は一六六二万人(ゼロ一〇八万人、一〜一四時間三二七万人、一五〜二九時間七六八万人、三〇〜三四時間四五九万人)です(表3)。ここでは労働時間ゼロでも「就業者」ですが、この他に「調査週の就業が一時間未満」と言う三五九万人を「完全失業者」としてカウントしています(表2)。膨大な短時間就業者と「完全失業者」との合計は二〇二一万人(労働力人口の三〇・二%)、この内で週労働時間一〇時間未満の事実上の失業者は六二七万人におよびます。

 今日急増している非「正規」労働者は、年々深刻化する雇用・失業情勢のもとで「正規」労働市場からしめだされ、「統計に表れる完全失業者」と背中合わせで、「失業・半失業」状態に沈澱させられている労働者です。

2、労基法改悪も先取り、権利破壊の最前線

  非「正規」労働者の「失業・半失業」状態は、その無権利状態に端的に現われています。パート・非「正規」労働者の実態は、「パート法」一〇年の今日も、深刻な差別と無権利に覆われているのです。

 労働者を雇う側から見れば、『「正規」に非ず』と言うのが非「正規」雇用を導入する動機でした。「パートには労働基準法は適用されない」といわんばかりに、従来の男女差別の上に、雇用差別を積み重ねるかたちで「無法地帯」は拡大されてきました。

 増加の一途をたどる非「正規」労働者のなかで、女性の占める比率は、八〇年六五・六%から〇二年七一・六%に六ポイントも上昇。不安定雇用の拡大にあたっては依然として「男女差別」が幅を効かせています。

 〇二年「厚生労働白書」が、パート労働者のなかで女性が七六%を占め、一般労働者にたいする賃金水準比率は八一年の七〇・五%から九一年の六四・四%へ、さらに最近は五五・五%へと、一貫して低下していると指摘しているように、いまも「男女差別」は、賃金上の差別に連動していますし、これに加えて拡大する「雇用差別」は二重、三重の差別の構造を形成しています。そのような職場では、法律違反も日常茶飯事、人権と諸権利の蹂躙も大手を振って行われます。いま長引く不況のもと、多くの企業は「生き残り」を口実に整理・統合・合併、事業所のスクラップ&ビルド・移転、業務の外部委託化など、リストラに余念がありませんが、ここでも当たり前のように、非「正規」労働者への「雇い止め」や「契約の下方更新」が乱発されています。

 「正社員は簡単に解雇できないから臨時社員に辞めてもらう」という経営者の伝統的な感覚は、労働基準法が連続的に改悪され、リストラが横行するなかで、「正社員も解雇できるんだから臨時社員の使い捨ては当然」というものに変わっています。労基法改悪に支えられながら強行される大企業の人減らし・委託化が、広範な職場と地域に非「正規」雇用をいっそう広げ、そこがいま労働者全体の「権利破壊の最前線」となっています。

3、賃金を囲い込む「課税最低限」の檻

 リストラと賃金抑制が吹き荒れ、労働市場に失業が氾濫するもとで、不安定・非「正規」労働者の賃金は「買い手相場」に追い込まれ、働き続けたいなら「時間給切り下げと契約時間延長」をセットで呑まされる例が多発しています。これに加えていわゆる「パートの課税最低限」の影響も相変わらず深刻です。

 先ほども見た〇二年の「労働力調査」(表3)は、わが国の「労働力人口」の何と三七%=二四七五万人(完全失業者三五九万人、年収ゼロ六六万人、五〇万円未満四〇九万人、五〇〜九九万円六二〇万人、一〇〇〜一九九万円一〇二一万人の合計)が年収二〇〇万円未満という低水準にあり、そのなかでも一四五四万人におよぶ年収一〇〇万円未満の就業者と失業者の層が大きな比重を占めていることを明らかにしています。これは、九五年いらい一〇三万円に凍結されてきた「パートの課税最低限」が、この時期に激増を重ねてきた非「正規」労働者の賃金水準を、いかにみごとにその一〇三万円の影響下に押さえ込んできたかをしめしています。

 この「パートの課税最低限」は、七〇年には四七万七五〇〇円だったものが数次にわたって引き上げられ、九五年に一〇三万円まで、七〇年対比で二・一六倍に引き上げられたものです(表4)。ところが、労働省(当時)の「毎月勤労統計調査」による七〇年の一般労働者の平均賃金は月七万五七〇〇円(一時間当たり四〇五・七円)でした。その後七三〜四年の大幅な名目賃金引き上げ、その翌年からの財界の「賃金抑制攻撃」のもとで大きく変動し、また抑制されたとは言え、一般労働者の賃金は二〇〇〇年までに三九万八一〇〇円=七〇年の五・二六倍(一時間当たり二五七〇円=同六・三三倍)になりました。ところが同じ期間の「パートの課税最低限」は、九五年に一〇三万円になってから改定されておらず、引上げ幅は七〇年のわずか二・一六倍(一般労働者の六・三三倍の三割)にとどまりました。

二、待遇・権利の破壊の背後にある「財界の21世紀戦略」

  では、このように非道・無法な非「正規」雇用、無権利・短時間・低所得・不安定雇用は、一体なぜ、どのようにして、かくも異常に増加してきたのでしょうか。

 いやしくも法治国家を誇る日本で、財界・大企業の無法と横暴がまかり通ってきたのは、実は政府・行政がこれを全面的に支援してきたからなのです。

1、大リストラと大増税

 先に見た「財界の二一世紀戦略」には、@長期蓄積能力活用型以外のすべての労働者を、高度専門能力活用型(技術の使い捨て型)の三〜五年契約か、雇用柔軟型(首切り自由自在型)の短時間・短期間契約のいずれかに切り替える、Aこれらを推進するために、派遣労働の職種拡大、民間職業紹介事業の合法化、有期雇用契約期間の延長、使用者への解雇権保障などを政府・行政に要求するなどが居丈高にうたわれていました。

 これらは、みずから招いた日本経済の行き詰まり、多国籍企業化と「大競争」に対応しつつ、いっそうの高利潤獲得のために、従来の労働者支配の柱であった「年功序列・終身雇用」を一方的に清算し、雇用の中心を非「正規」雇用に切り換えようとするものに他なりません。

これらの財界の要求に応えて政府は、一方では九五年の六八五〇億円の「住専処理」を皮切りに、金融再生法(九七年)、産業再生法・民事再生法(九九年)、会社分割法・労働契約承継法(〇〇年)、不良債権の早期処理(〇一年)など、競争に付きものの経営破綻さえも労働者の大量首切りに利用する法律を次つぎにつくり、国民の税金を湯水のように注ぎながら、銀行・大企業の損失を補填し、大規模なリストラを支援してきたのです。

他方で政府は、九三年の「パート法」制定をはじめとして、労働者派遣法の緩和(九六年、その後九九年に再緩和、〇三年に全面解禁)、労基法の連続改悪(九七年に女子保護規定の撤廃、九八年に変形・裁量労働制と専門職の有期雇用三年契約制の導入、〇三年に有期雇用三年契約の一般化と専門職五年制への緩和、裁量労働制の拡大)など、財界の要求に沿って労働者の権利と抵抗を抑える「労働法制改悪」をくりかえしてきました。

2、パート法と課税最低限

 財界と国・行政が連携して雇用リストラを推進する中で、大きな位置づけと役割を与えられてきたのが「パート法」と「課税最低限」です。前者は、非「正規」労働者の無基準・無権利状態を事実上容認し、後者は、以下に見るように「賃金抑制・雇用破壊装置」として機能してきました。

  政府が「課税最低限」を制度化したのは戦後間もない一九四七〜八年ですが、当初の「配偶者控除」は基礎控除の半分の金額でした(表4)。それを政府は、七〇年代初頭から基礎控除と同額に引き上げ、八八年からは「配偶者特別控除」の導入によってこれをさらに倍額に引き上げます。これによって財界は、企業の賃金体系での「配偶者・家族手当」などを、税法上の「配偶者控除・配偶者特別控除」と関連づけ、パート労働者などが「課税最低限」を超える収入を得ると、@被扶養者への課税、A扶養者への増税、A扶養者の賃金・手当の減額という「三重苦」が一気に家計を襲う仕組みをつくることができました。こうしてほんらいの「課税最低限」の原理から切り離された「パートの課税最低限」は、賃金を抑制し、男女差別・雇用差別を助長するものとされたのです。

 このもとで広範なパート・不安定雇用労働者は、長いあいだ「夫または配偶者の所得に対する配偶者控除」と賃金における「配偶者手当」という、本人が律することの困難な重い荷物を背負わされてきました。非「正規」労働者は、いわば「どこにも行けない道」に積もる吹き溜まりのように、低賃金と無権利の嵐にさいなまれながら、うずたかい層をなして働いてきたわけです。

政府・財界が連係プレーによって推進してきた非「正規」雇用の拡大は、その対極でのリストラ「合理化」や下請け単価の切り下げ、膨大な失業者・半失業者・未組織労働者の創出と一体のものなのです。

3、非「正規」労働者に襲いかかる新たな負担

 こうして法外の無権利と「課税最低限」の檻に閉じこめられてはいても、非「正規」労働者は今日、社会的労働の中心的な担い手として、押しも押されもしない位置を占めるにいたりました。そこで貪欲な財界は、この巨大な分野に、従来からの「雇用柔軟型」雇用へのシフト計画は堅持しながら、新しい利潤確保の体制をつくるべく、これまで以上に政府を動かす策動を強めています。

 これまでも財界は政府を動かし、大企業と高所得者への大幅減税、消費税引き上げを含む大衆増税、社会保障保険料の引き上げ企業負担の軽減、年金・医療・社会保障の給付の圧縮を追及してきましたが、九八年に「パート法」見直しを回避した女性少年問題審議会「最終報告」が、諸制度の「世帯単位から個人単位への切り換え」や「企業の配偶者手当制度」のあり方の抜本的な見直しなどを「建議」したのをひとつの契機に、攻撃の矛先を非「正規」労働者のふところに向けました。

 これを受けた政府の方針は、昨〇二年末に厚生労働省が出した「年金改革の骨格に関する方向性と論点」、去る六月一七日に発表された政府税制調査会(首相の諮問機関)の「中長期の税制『改革』方針」、同二六日に政府の経済財政諮問会議(議長・小泉純一郎首相)が決定した「骨太の方針」第三弾=「経済財政運営と構造改革に関する基本方針二〇〇三」などに示されています。そこには、配偶者特別控除の廃止、配偶者・給与所得・年金等控除の圧縮と消費税率の大幅引き上げによる税収拡大、年収六五万円を超えるすべての労働者・国民からの年金・健康保険・介護保険料の徴収、年金給付の圧縮など、非「正規」労働者も含む全労働者に高負担と忍耐を強いるプログラムが目白押しです。

 これらは、負担の「公平化」のためと説明されていますが、労働と暮らしのなかでの差別と不公平が正されない限りは、それは新たな不公平にしかなりません。それは、果てしない食欲に目の眩んだハイエナが、「正規」労働者の暮らしと家計という従来の餌場をむさぼりつくし、非「正規」労働者の懐を残された餌場として襲いかかるかの様相を呈しています。これは日本経済の屋台骨をも損なう「禁断の餌場」への攻撃といわなければなりません。

三、胎動する怒り、ガマンから不満に、不満からロマンに!

  もともと、広範な短時間労働者が存在してきた背景の一つには、労働者の側からの長時間・過密労働への抵抗が反映しています。この点を見据えると、短時間・非「正規」労働者の要求の性格が見えてきます。その要求を基礎にしてたたかいを開始している姿も見えてきます。

1、厳しい攻撃がたたかいを触発する

  わが国の労働組合運動は、こうしたパート労働者の状況に対応できなかったこともあり、その組織率を毎年毎年低下させてきました。厚生労働省の「労働組合基礎調査」によると、〇二年の労働組合員数は八年連続して減少し一〇八〇万人(前年より四一万人減)、単位組合数は六万五六四二組合(前年より二〇六四減少)、その結果、推定組織率は二〇・二%(前年より〇・五%低下)まで落ち込みました。これらを一〇年前の九二年と比べると、組合数で六二三八組合(八・七%)減、組合員数で一七四万人(一三・九%)減となり、推定組織率四・二%も低下しました。

 労働組合員のなかの「パートタイム労働者」は、九二年の一三万一八八〇人から〇二年の二九万三〇〇〇人に、一六 万一一二〇人(二二二・二%)の大幅な増加を実現してきましたが、激増する「短時間労働者」のなかでの組織率はまだ二・四%に過ぎず、あまりにも低すぎます。

  これらの数字を〇三年の「労働力調査」(表1)の雇用者数に当てはめて分析して見ると、以下のことが推定されます。@「正規」労働者三四四四万人は、一〇五〇万七〇〇〇人の労働組合員(組織率三〇・五%)と二三九三万三〇〇〇人の未組織労働者に区分できること。Aパート労働者等(アルバイト・嘱託・就業希望者・完全失業者をふくむ)一八五九万人は、二九万三〇〇〇人の労働組合員(組織率一・六%)と一八二九万七〇〇〇人の未組織労働者に区分できること。Bしたがってパート労働者等の組織率が極度に低く、労働組合組織率を引き下げる要因となっていること。C未組織労働者は四二二三万人、その内「正規」労働者は五六・七%、四三・三%は非「正規」労働者と失業者であること。

  これら膨大なパート労働者等の「数と力」がいま、財界と政府の乱暴な「連携プレー」に翻弄されているわけです。わが国の労働者の賃金が四年連続して低下するなかで、労働者家計に占めるパート収入の比重はいよいよ高まっています。それなのに、長期化する不況と失業の増大を利用して、一〇年も二〇年も働いてきた非「正規」労働者に、一方的な「雇い止め」や、いまでさえ低すぎる時間給の引き下げや、ただでさえ貧弱だった一時金や退職金の廃止をおしつけるなど、それは暴挙ともいうべき攻撃です。このような暴挙が重ねられるにつれて、全国・全産業の職場と地域に、これ以上耐えることのできない切実な要求と怒りが蓄積し、組織づくりとたたかいを触発します。要求と怒りは、やがてガマンから不満へ、そして不満を解決しロマンと展望を切りひらくためのたたかいへ、かならず発展します。低賃金と無権利の深くて暗い檻の底には、不安定・非「正規」労働者の巨大で新鮮なエネルギーが出番を待っています。

 この巨大で新鮮なエネルギーを結び合わせるうえでもっとも大切なのは、「切実な要求をひとみのように大切にする」ことです。要求を阻むものへの反撃、一致する要求を実現するための共同、力を合わせてたたかうことこそが、組織化の成功と勝利への展望です。

2、パート労働者等の運動の意義と課題

 パート・臨時・派遣労働者は、千差万別の雇用形態・労働諸条件のもとに置かれているために、一面では「正規」労働者よりも要求を統一させるうえでの困難を抱えています。しかし、資本の戦略のもとで、長いあいだ雇用差別にしばりつけられてきたために、「正規」労働者のような「働き蜂」にはならなかった(正確には「なれなかった」)パート・臨時労働者は、その根っ子では「劣悪・不安定・被差別・無権利」などの共通点を持ち、これらにたいする強いいきどおりと、手抜きせずに守り抜いてきた地域と家庭における深いきずなも身につけています。すでに膨大な人数になった非「正規」・パート労働者は、労働者の「数と力」の温床であり、「人間尊重」と「男女平等」をめざす要求とたたかいの宝庫です。

  これまで労働組合は、財界と政府の激しい攻撃のもとで、従来からの組合員である「正規」労働者の権利と雇用を守ることに精一杯という状況に追い込まれてきました。しかしいま、民間・公務を問わず賃金引き下げと大リストラの攻撃に見舞われている「正規」労働者は、非「正規」労働者の低賃金・無権利状態を放置しては、自らの生活と権利を守ることはできないという自覚を休息に高めています。このことは、たとえば自治体職場や地域労組での非「正規」労働者の組織化の前進にもよく示されています。

  すでに見てきたように、非「正規」・不安定雇用労働者と失業者が労働者全体の三五%、未組織労働者の四三・三%をしめているのです。いま「解雇規制」や「均等待遇」の方向が誰も逆らうことのできない流れとなり、大きな社会問題として自治体決議や超党派国会議員連盟がとりあげる時代が始まっています。自治体決議を活用して、まず当該自治体から差別をなくすたたかいも工夫されています。膨大な層として形成された労働者を差別し、隙さえあれば徹底的に搾ろうとする日本の財界のありようは、とうてい二一世紀の世界で通用するものではありません。

 このことの裏を返せば、非「正規」労働者の要求とたたかいを組織する事業は、二一世紀を生きるすべての労働者・労働組合が、もはや一歩も避けて通れない課題になっているということです。

3、税・年金攻撃への反撃こそ反転攻勢のチャンス

 財界と政府が、非「正規」労働者に、税金と年金・社会保障の新たな負担をかぶせようとしていますが、これは財界と政府にとって危ない賭けに他なりません。永年にわたって「課税最低限の檻」に押し込められてきたパート・非「正規」労働者は、決して飼いならされた虎ではありません。幾多の辛酸をなめさせられつつ、すでに労働力人口の四割に迫る巨大な力を持つまでに成長を遂げた非「正規」労働者に新たな負担をおしつけるなどというのは、まさにこの虎の「尾を踏む」ものです。

 これまで職場・地域ごとに分断され、「課税最低限の檻」に閉じ込められて苦しんできた分、非「正規」労働者は、賃金問題を税制や社会保障制度と関連づけてとらえる力を身につけています。二〇〇〇万人の非「正規」労働者は、税金と社会保障という一つの土俵のうえに引きだされることによって、これまでの労働組合運動のペースでは経験できなかった勢いで団結する条件を手にするわけです。この期を逃してはなりません。

 そもそも税金は、「応能負担原則」にもとづき、少なくとも労働者の「最低生活費には課税しない」のが原則です。この精神を実体化するのが「課税最低限」ですから、生活の必要経費に関する「給与所得控除」は、企業の必要経費と同様、「課税最低限」に算入すべきものではありません。ところが財務省は、基礎控除、給与所得控除、社会保険料控除、配偶者控除、扶養控除などを合算し、単身者一一四・四万円、夫婦子二人世帯三八四・二万円がわが国の「課税最低限」であるとしています。仮にこの計算方法を認めても、月額換算(一時金三ヶ月と仮定)では、単身者七万五〇〇〇円、夫婦子二人世帯二三万円。「給与所得控除」を含めてこんな低水準ではとうてい暮らせません。

 すでに少なくないパート労働者は、政府の「課税最低限」計算のごまかしをただす課題と、「パートの課税最低限」の大幅引き上げを求める課題とを結合してたたかっています。また、いま、消費税増税阻止、消費税や医療費の負担を「引上げ前の状態」に戻せ、全国一律最低賃金制の確立による最低生活保障、これを下限とする生活保護基準や最低保障年金制度の確立、一日八時間=週四〇時間労働制の回復などの課題が全労働者にとって重要になっているときに、各地でたちあがっている非「正規」労働者は、これらの課題と結んで、基礎控除を大幅に引き上げるたたかいを重視しています。

 これらのたたかいは、わが国の憲法の精神である「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障するたたかいであり、勤労国民の人間らしく生き働く権利を保障し、わが国の経済・社会の安定と発展を実現するたたかいにも繋がって、やがて勝利の道を見出すでしょう。        (すずき あきら・全労連顧問)

 

<表1> 労働力人口、1年間の変化(1〜3月期)

 

2002年
(
万人)

2003年

(万人)

倍率

(倍)

労働力人口

6,619

6,572

0.993

就業者数

6,259

6,209

0.992

雇用者数

5,297

5,317

1.003

 役員

406

376

0.926

 「正規」

3,486

3,444

0.988

 非「正規」

1,406

1,496

1.064

     パートタイマー

700

751

1.073

   アルバイト

323

341

1.056

   派遣・契約・嘱託

257

272

1.058

  その他

126

132

1.048

完全失業者

360

363

1.008

 

<表2> 労働力人口、5年間・10年間の推移

 

1992年

(万人)

1997年

(万人)

92

(倍)

2002年

(万人)

97

(倍)

92

(倍)

労働力人口

6,578

6,787

1.032

6,689

0.986

1.017

就業者数

6,436

6,557

1.019

6,330

0.965

0.984

雇用者数

5,119

5,435

1.062

5,331

0.981

1.041

 「正規」

4,251

4,321

1.016

4,109

0.951

0.967

 非「正規」

868

1,114

1.283

1,222

1.097

1.408

完全失業者

142

230

1.620

359

1.561

2.528

<表3> 就業者の週労働時間と年収の分布(2002年) 

週当り労働時間別

年収別

労働

(時間)

人数

(万人)

小計

(万人)

年収

(万円)

人数

(万人)

小計

(万人)

0

108

0

66

1〜4

37

 

 

1,554

50未満

409

 

2,050

5〜9

123

50〜99

620

10〜14

167

100〜199

1,021

15〜29

768

200〜299

942

 

2,516

30〜34

459

300〜399

903

35〜39

446

 

 

4,636

400〜499

671

40〜48

2,391

500〜699

760

 

1,474

49〜59

984

700〜999

535

60〜

815

1000〜1499

179

不詳

31

1,500以上

57

57

合計

6,330

6,190

合計

6,330

6,264

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  <表4> 「パートの課税最低限」の生成

 

「課税最低限」(円)

配偶者控除(円)

現金給与総額(円)

基礎控除 給与所得控除 合計 配偶者控除 配偶者特別控除 月額 時間額

1946

1947

1948

 10,000

4,800

 10,325

 

6,000

 15,000

10,000

10,800

25,325

 

   2,400

 5,975

 

 

 

課税限度額

給与所得控除は上限

 

 

 

 

 

 

1970

1980

1990

2000

177,500

290,000

350,000

380,000

300,000

500,000

550,000

650,000

477,500

790,000

900,000

1,030,000

 177,500

 290,000

 350,000

 380,000

 

 

350,000

380,000

 

88年から配特控除

 

75,700

263,400

370,200

398,100

405.7

1,449.1

2,164.9

2,570.0

70〜00

2.14倍

2.16倍

2.16倍

2.14倍

 

 

5.26倍

6.33倍